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2024年、行政手続きのデジタル化が加速——経営者・個人が今すぐ確認すべき実務チェックリスト

2026年7月10日 菊池 未聖|行政書士・行政書士きくち事務所代表

「先生、最近なんだかお役所への申請手続きがオンラインになってきたと聞いたのですが、私たちも何か対応が必要なのでしょうか」——クライアントからこのような質問をいただく機会が、2023年後半から明らかに増えています。医療法人の設立認可申請を検討しているクリニック院長、ものづくり補助金を申請しようとしている製造業の社長、遺言書の作成を考え始めた資産家の方、いずれも「デジタル化」という言葉は耳にするものの、具体的に自分の手続きに何が変わるのかが見えていない、という状況が多いように感じます。

2024年は、行政手続きのデジタル化が単なるスローガンから「現実の制度変更」へと移行する重要な節目の年です。デジタル手続法(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)の改正や、マイナンバー制度の拡充、各省庁のオンライン申請システムの整備が同時並行で進み、申請者側にも実務上の対応が求められる場面が着実に増えています。「去年と同じやり方で大丈夫だろう」という思い込みが、申請の遅延やトラブルにつながるケースも出始めています。

本稿では、行政書士として日々の申請業務に携わる立場から、2024年のデジタル化の流れが実際にどのような手続きに影響しているのかを整理します。医療法人設立・補助金申請・遺言書作成という三つの分野を中心に、経営者や個人の方が「自分ごと」として理解できるよう、制度の概要から実務上のチェックポイントまでを具体的にお伝えします。

なぜ「今」デジタル化が急加速しているのか

行政手続きのデジタル化は、2019年施行のデジタル手続法(正式名称:情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)を大きな起点としています。同法の基本原則は「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」の三つであり、要するに「一度提出した情報は繰り返し提出させない」「申請はすべてオンラインで完結できるようにする」という方向性を国が明確に打ち出したものです。

しかし、当初の計画は新型コロナウイルス感染症への対応に追われる形で停滞した部分もありました。その反省を踏まえ、2022年のデジタル庁発足以降、各省庁のシステム整備と法令改正が一気に加速しています。2024年には特に、マイナンバーカードと各種行政手続きの連携強化法人設立ワンストップサービスの対象拡大e-Govを通じた申請対象手続きの拡充が実務に影響を与えています。

加えて、2024年は「書面規制の見直し」が多くの省庁で進んでいる年でもあります。法令上「書面」や「押印」を義務づけていた規定が電子的な方法でも可能となるよう改正されたケースが増えており、これは申請者にとっては便利になる一方、「どの手続きがどこまで電子化されているか」を個別に確認しなければならないという新たな確認コストも生んでいます。

医療法人設立手続きへの影響と実務チェックポイント

医療法人の設立認可申請は、都道府県知事に対して行う手続きです。申請書類の提出先・受付方法は都道府県ごとに異なるため、一律に「オンライン化された」とは言えないのが現状です。ただし、2024年時点でいくつかの重要な変化が起きています。

まず、定款認証手続きの電子化です。医療法人は公証役場での定款認証が不要ですが、法人設立に関連する公証業務全般でオンライン申請の整備が進んでおり、関連手続きを一括で進める際の流れに変化が生じています。次に、社会保険・労働保険の加入手続きとのオンライン連携が法人設立ワンストップサービスの拡充により整備されてきており、設立後の諸手続きをより効率的に進められる環境が整いつつあります。

実務上で私が特に注意を促しているのは、都道府県への提出書類における「押印」の取り扱いです。国の方針として押印廃止が進む一方で、都道府県レベルでは医療法人設立認可申請の書式や押印要件が独自に設定されているケースが多く、「国がハンコ不要と言っているから押さなくていいだろう」という判断が誤りになることがあります。必ず申請先の都道府県担当窓口に最新の書式と要件を確認することが不可欠です。

ポイント:医療法人設立においては、都道府県ごとに手続き要件が異なります。厚生労働省の通知や都道府県の最新書式を必ず確認し、「去年の書式をそのまま流用する」ことは避けてください。認可申請の受付窓口がオンライン受付に対応しているかどうかも、事前確認が必須です。

補助金申請のデジタル化と「jGrants」活用の実態

中小企業向け補助金・助成金の申請分野では、デジタル化がすでにかなり進んでいます。経済産業省・中小企業庁が主管するものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金などの主要補助金は、jGrants(電子申請システム)を通じたオンライン申請が原則となっています。

jGrantsとは、補助金申請の電子化を実現するためにデジタル庁が整備しているプラットフォームであり、GビズID(法人・個人事業主向けの共通認証システム)と連携して利用します。GビズIDの取得が申請の前提条件となる補助金が多く、これを取得しないまま公募期間が始まってしまい、慌てて申請しようとしてもIDの審査に数週間かかるため間に合わない、というケースが依然として発生しています。

2024年の動向として注目されるのは、補助金申請情報の連携強化です。事業者が過去に申請した補助金情報や法人の基本情報が、GビズIDを媒介として各補助金システムに引き継がれる仕組みが整備されつつあり、「ワンスオンリー」の原則が徐々に実現されてきています。一方で、電子申請に不慣れな経営者にとっては、システムの操作そのものがハードルとなっており、操作ミスや添付書類の形式不備による不受理・審査落ちの事例も引き続き見られます。

補助金の電子申請では、申請書類のPDFサイズ・ファイル名・ページ数制限が細かく規定されていることが多く、これらを満たさない場合にシステム上でエラーとなり提出ができないことがあります。締切直前の申請はシステム混雑によるトラブルリスクも高まるため、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。

遺言書・相続手続きにおけるデジタル化の現在地

遺言書作成と相続手続きは、他の分野と比べてデジタル化の進み方がやや異なります。遺言書そのものについては、現行の民法上、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言という三つの方式が規定されており、電子データによる遺言書は現時点では法的に認められていません。この点は2024年時点でも変更はなく、「電子遺言が解禁される」という情報は誤りですのでご注意ください。

ただし、周辺手続きでの変化は見逃せません。2020年より運用が開始された法務局における自筆証書遺言書保管制度は、利用件数が年々増加しており、申請手続きの一部がオンライン化される方向で整備が進んでいます。また、相続手続きに必要な戸籍謄本等の広域交付制度が2024年3月から開始されたことは、実務上の大きな変化です。これにより、本籍地が遠方にある場合でも、最寄りの市区町村窓口で戸籍を取得できるようになり、相続手続きにかかる時間と手間が大幅に軽減されました。

さらに、法定相続情報証明制度の利用促進も続いており、金融機関や不動産登記での手続きがスムーズになっています。遺言書作成を検討している方は、こうした周辺制度の整備状況も踏まえて、全体的な相続対策を設計することが望ましいと言えます。

経営者・個人が今すぐ確認すべき実務チェックリスト

デジタル化の進展により、手続きのやり方が変わっても「制度の本質」は変わりません。重要なのは、変化に気づかずに旧来の方法で動いてしまうことで生じるロスやリスクを避けることです。以下に、読者の方が今すぐ確認しておくべき項目を整理します。

医療法人設立を検討しているクリニック経営者へ

  1. 申請先の都道府県担当部署の最新書式・受付方法を確認したか
  2. 定款案・基本財産の要件が直近の通知で変更されていないか確認したか
  3. 理事・監事の要件(欠格事由・員数)を最新の医療法で確認したか
  4. 設立後の社会保険・労働保険手続きに必要なGビズID等の取得状況を確認したか
  5. 認可申請のスケジュールと都道府県の審査サイクル(年2回が多い)を把握しているか

補助金申請を検討している中小企業経営者へ

  1. GビズIDを取得済みか(未取得の場合、取得に2〜3週間程度かかる場合がある)
  2. 公募要領の最新版を入手し、申請要件・加点項目を確認したか
  3. 電子申請に必要な添付書類のファイル形式・サイズ制限を確認したか
  4. 事業計画書の記載要領を最新版で確認したか(要領は公募回ごとに変わることがある)
  5. 申請締切の時刻(24時ではなく17時や18時が多い)を確認したか

遺言書作成・相続対策を検討している個人の方へ

  1. 法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用を検討しているか
  2. 2024年3月開始の戸籍広域交付制度を相続手続きのスケジュールに組み込んでいるか
  3. 遺言書の内容が現在の家族構成・財産状況と一致しているか定期的に見直しているか
  4. 相続人・受遺者に遺言書の存在を知らせる方法について検討しているか
  5. 遺言執行者の指定について専門家と相談したか

行政書士に依頼するメリット——デジタル化時代だからこそ

「オンラインで申請できるようになったなら、自分でできるのでは」と思われる経営者の方も多いと感じます。確かに、電子申請の普及により手続きの入口は広がりました。しかし、申請の「入口」が広がることと、「申請が通る」こととは別の話です。

私が実務で感じるのは、デジタル化によって申請書類の品質差がより明確に結果に反映されるようになっているということです。補助金申請では採択率の低い公募もあり、事業計画書の内容や要件の充足度が審査結果を左右します。医療法人設立では、書類不備による差し戻しが生じると次の審査サイクルまで半年以上待たなければならないケースもあります。

行政書士への依頼が有効な理由は、単に「書類を書いてもらう」ことではありません。法令・通達・最新の運用実態を踏まえた書類設計と、申請後のフォロー対応、そして制度変更の早期キャッチアップという三つの価値にあります。特に制度が頻繁に変わるデジタル化の過渡期においては、最新情報を継続的にアップデートしている専門家のサポートは、時間的・経済的なリスク回避に直結します。

まとめ

  • 2024年は行政手続きのデジタル化が「スローガン」から「現実の制度変更」へと移行する節目の年であり、経営者・個人の双方に実務上の対応が求められている。
  • 医療法人設立申請は都道府県ごとに手続き要件が異なり、押印・書式・受付方法について必ず最新情報を確認する必要がある。
  • 補助金申請ではGビズIDの事前取得と、公募ごとに変わる要領の精読が申請成功の前提条件となる。
  • 遺言書そのものの電子化は現行法上認められていないが、法務局の保管制度や戸籍広域交付制度など周辺手続きのデジタル化・効率化は着実に進んでいる。
  • デジタル化により申請の入口は広がったが、書類の品質・要件の充足度が結果に与える影響は変わらず、むしろより明確になっている。
  • 制度変更が続く過渡期において、最新情報をアップデートしている行政書士との連携は、時間と費用のリスク管理という観点から実質的な価値を持つ。

Closing Note

デジタル化の波は、行政書士の仕事の仕方も変えています。私自身、電子申請システムの操作方法や各省庁のオンライン手続きの最新動向を日々確認しながら業務に当たっています。変化が速い時代だからこそ、「制度の本質を理解したうえで変化に対応する」という基本姿勢が、申請業務においても相続対策においても変わらず重要だと感じています。

「自分の手続きに具体的にどんな影響があるのか」「今の準備で本当に大丈夫か」という疑問をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。手続きの種類・状況によって最適な対応は異なりますが、現状を整理し、次の一歩を明確にするところからお手伝いできます。行政書士きくち事務所は、医療法人設立・補助金申請・遺言書作成を中心に、皆さまの「動き出し」を実務の面からサポートしています。

菊池 未聖

菊池 未聖

行政書士・行政書士きくち事務所代表
医療法人鳳應会 理事

慶應義塾大学法学部卒。助成金・補助金の申請と医療法人設立を専門とする行政書士。ものづくり補助金・IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金・キャリアアップ助成金・事業再構築補助金からクリニック開業補助金まで。採択される申請書の書き方を中小企業・個人事業主、医療機関向けに発信。